- スタートアップやベンチャーの明確な違い
- ユニコーンなど企業価値を表す言葉の意味
- 起業からEXITまでの成長段階と関連用語
ニュースで「国内で新たなユニコーン企業が誕生」というヘッドラインを見たり、ビジネスの話で「あの会社は今、アーリーステージで…」と聞いたりした時、その言葉の意味を説明できるでしょうか?
詳細まで分からないとしても知らないというのは恥になります。特にIT業界にいればなおさらです。もしスタートアップでもない企業をスタートアップと言ってしまったり、ベンチャーでもない企業をベンチャーと言ってしまったりしたら、考えただけでも恐ろしくなります。
「スタートアップ」と「ベンチャー」は、どちらも新しい挑戦をする企業を指す言葉ですが、そのニュアンスには明確な違いがあります。さらに、企業の価値を示す「ユニコーン」「デカコーン」、成長の段階を示す「シード」「レイター」、そしてそれらを支える「ベンチャーキャピタル」や最終的なゴールである「EXIT」──。
これらの言葉は、現代のビジネス、特にテクノロジーやイノベーションの世界を理解する上で欠かせない共通言語です。しかし、カタカナ用語が多く、とっつきにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんなビジネスの最前線で飛び交う重要用語を、一つひとつ丁寧に、そして「こういう場合はスタートアップになる・ならない」といった分かりやすい例えを交えながら解説します。
企業を分類した用語
この項目で紹介する用語は企業を二つの異なる軸で捉えるための重要な指標となります。
一つは、創業期から成熟期へと至る「成長段階」という時間軸。もう一つはその時点での事業や将来性への期待値を含んだ評価額が示す「規模」という物差しです。
これらの用語を知ることで、その企業が現在どのような位置付けにあるのかを、より立体的に理解するのに役立ちます。
スタートアップ
- 革新的なアイデアで急成長
- 新しい市場を開拓する
- 短期間でのイグジットを目指す
「始める」「起動する」といった意味を持つ言葉で、まだ世にない革新的なアイデアで新たな市場を開拓し、短期間で急成長する企業を指す。
既存のテキストや指導法を用いて、地域密着型の新しい学習塾を開業する会社はスタートアップにあたらないが、これまでになかったAIが個人の学習データを解析して最適な教育カリキュラムを自動生成する、オンライン学習サービスを開発・運営する会社はスタートアップにあたる。
ベンチャー
- 新規事業へ挑戦する企業
- 既存のビジネスモデルが基本
-
大企業では難しい事業を行う
「挑戦」「冒険」といった意味を持つ和製英語。新しい技術やビジネスモデルで成長を目指す、設立して間もない企業を指す。既存のビジネスモデルをベースにしている点でスタートアップとは異なる。
大手ECモールに出店し、すでに多くの競合がいる一般的な商品を販売する会社はベンチャーにあたらないが、ニッチな市場である特定の趣味を持つ人々に向け、独自の仕入れルートを開拓し、専門的な商品を販売するECサイトを立ち上げる会社はベンチャーにあたる。
メガベンチャー
- 大企業へ成長したベンチャー
- 安定した経営基盤を確立
- 従業員数・売上高が大きい
ベンチャー企業から始まり、大企業に匹敵するレベルまで成長した企業のこと。上場していることも多く、従業員数や売上高も大企業に匹敵する。楽天グループ、サイバーエージェント、メルカリなどが代表例。
創業100年以上の歴史があり安定した経営基盤を持つ、大手鉄道会社はメガベンチャーにあたらないが、最初は一つのスマホゲームアプリから始まった会社が、次々とヒット作を生み出し、上場してITインフラ事業や広告事業など多角的なビジネスを展開して巨大企業になった場合メガベンチャーにあたる。
ユニコーン
- 評価額10億ドル以上の未上場企業
- 設立10年以内のテクノロジー企業
-
希少な存在であることの比喩
評価額が10億ドル以上、設立10年以内、未上場、テクノロジー企業という4つの条件を満たす企業を指す。この名前がついたのは、伝説の生き物であるユニコーンのように希少であることから。
上場しており、時価総額が1500億円ある、安定した収益を上げている食品メーカーはユニコーンにあたらないが、創業5年目の未上場のフィンテック企業が、革新的な決済システムを開発し、投資家から1500億円の企業価値があると評価されたらユニコーンにあたる。
デカコーン
- 評価額100億ドル以上の未上場企業
- ユニコーンの10倍の規模
- 世界でも数十社しか存在しない
ユニコーン企業の10倍の規模、つまり評価額が100億ドルを超える巨大な未上場企業のこと。「デカ」は10倍を意味し、世界でも数十社しか存在しない。動画投稿アプリ「TikTok」を運営する中国のByteDanceなどが有名。
世界中に支店を持つ、上場済みの巨大な銀行はデカコーンにあたらないが、未上場の企業が開発した動画共有アプリが世界中で爆発的に普及し、その企業価値が1兆5000億円以上だと評価されたらデカコーンにあたる。
ヘクトコーン
- 評価額1000億ドル以上の未上場企業
- ユニコーンの100倍の規模
- 世界でも数社しか存在しない
ユニコーン企業の100倍、つまり評価額が1000億ドルを超える、極めて希少な未上場企業。「ヘクト」は100倍を意味し、世界でも数社しか存在しない。イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発ベンチャーのSpaceXなどがこれにあたる。
国の予算で運営されている、歴史のある宇宙研究機関はヘクトコーンにあたらないが、未上場の民間企業が、再利用可能なロケットを開発して宇宙開発のコストを劇的に下げ、企業価値が15兆円以上だと評価されたらヘクトコーンにあたる。
企業の成長段階を表す用語
この項目では主にスタートアップに対して使用される、企業の成長段階を表す言葉について、それぞれの要約と補足をまとめました。
シード (Seed)
- 創業前後のアイデア段階
- 製品やサービスはまだない
- 主に自己資金やエンジェル投資家が支援
文字通り「種」の段階で、まだ具体的な製品やサービスはなく、アイデアやビジネスプランを練っている状態。この段階では、主に創業者自身の資金や、個人のエンジェル投資家から少額の資金提供を受けて、事業化に向けた準備。
アーリー (Early)
- 製品やサービスの提供を開始
- ユーザー獲得と市場の反応を検証
- ベンチャーキャピタルからの資金調達も
製品やサービスのプロトタイプが完成し、市場に提供を始める段階。ユーザーからのフィードバックを元に改善を重ね、事業が市場に受け入れられるか(プロダクトマーケットフィット)を検証する。ベンチャーキャピタルから最初のまとまった資金調達を行うのもこの段階。
ミドル / グロース (Middle / Growth)
- 事業が軌道に乗り急成長する段階
- 黒字化やシェア拡大を目指す
- 大規模な資金調達を実施
事業モデルが確立し、売上が急激に伸び始める成長期。ユーザー数や顧客数を増やし、市場でのシェアを拡大することに注力。それに伴い人材採用やマーケティング活動も活発になり、数億円から数十億円規模の大きな資金調達を行うことが多くなる。
ミドル(Middle)とグロース(Growth)の2つの呼び方があるのは、両者がほぼ同じ成長段階を指しているから。話す人や文脈によってどちらかの言葉が選ばれる。
スタートアップの成長段階には、実は世界共通の厳密な定義があるわけではない。そのため投資家や起業家が、それぞれのニュアンスで言葉を使い分けることがある。
ミドル (Middle) は、その名の通り「中間」の意味。スタートアップ全体の成長プロセス(シード → アーリー → ミドル → レイター)の中間地点にある、という位置付けを強調した呼び方。
グロース (Growth) は「成長」を意味する。この段階は、事業が軌道に乗り、売上やユーザー数が急激に成長(グロースする、という特徴を捉えた呼び方。
どちらも「事業が軌道に乗り、急拡大する段階」
レイター (Later)
- 安定した収益基盤を確立
- 新規事業や海外展開を模索
- IPO(株式上場)やM&Aを視野に入れる
事業が成熟し、安定的に収益を上げられるようになった段階。さらなる成長を目指し、新しい事業を立ち上げたり、海外市場へ進出したりする。経営も安定しているため、IPO(株式上場)による資金調達や、他社とのM&A(合併・買収)を本格的に検討する。
関連用語
この項目では主にスタートアップに対して使用される用語でも、関連する個人や組織、ゴール地点をそれぞれの要約と補足をまとめました。
ベンチャーキャピタル
- 未上場の成長企業に投資する組織
- 資金提供と経営支援を行う
-
投資先の企業価値向上を目指す
高い成長が見込まれる未上場のスタートアップ企業などに出資する投資会社のこと。ただ資金を提供するだけでなく、経営コンサルティングや人材紹介、取引先の紹介など、多角的なサポートを通じて投資先企業の価値を高め、その企業が株式上場(IPO)やM&A(合併・買収)をする際に株式を売却し、大きな利益(キャピタルゲイン)を得ることを目的とする。略語はVC。
エンジェル投資家
- 創業初期の企業に出資する個人投資家
- 自身の経験を元に経営助言も行う
- 起業家を応援したいという思いが強い傾向
創業して間もない、まだ事業が軌道に乗っていないシード期やアーリー期の企業に対して、個人で資金を提供する投資家のこと。多くは自身も起業経験者であり、資金提供に加えて、その経験を活かした経営上のアドバイスや人脈の紹介など、事業の成長を親身にサポートする。VCとは異なり、起業家を育て、応援したいという思いから投資を行う側面が強いのが特徴。
イグジット(EXIT)
- 創業者が利益を得るための出口戦略
- IPO(株式上場)やM&Aが主な手段
- 投資家が資金を回収する重要な段階
創業者や投資家が、保有する株式を売却して投資した資金を回収し、利益を確定させること。スタートアップにとって、EXITは一つの大きなゴールであり、主な方法としてIPO(新規株式公開)とM&A(合併・買収)の2つがある。
新規株式公開(IPO)
- 企業が証券取引所に株式を上場させること
- 一般の投資家が株を売買できるようになる
-
社会的な信用と資金調達力が向上する
「Initial Public Offering」の略で、企業が自社の株式を証券取引所に上場し、誰でもその株式を売買できるようにすること。企業は、IPOによって市場から広く資金を調達できるようになり、知名度や社会的信用も大幅に向上。一方で、株主に対して経営の透明性や情報開示が厳しく求められるようになる。
合併・買収(M&A)
- 企業同士が合併したり、買収したりすること
- 事業の拡大や新規事業への参入が目的
- スタートアップの有力なイグジット手段の一つ
「Mergers and Acquisitions」の略で、複数の企業が一つになったり(合併)、ある企業が他の企業を買い取ったり(買収)すること。大企業が新しい技術やサービスを求めてスタートアップを買収するケースが多く、スタートアップにとってはIPOと並ぶ重要なEXITの選択肢となる。
デューデリジェンス (Due Diligence)
- 投資対象の企業価値やリスクを調査すること
- M&Aや投資を行う前に実施される
- 財務、法務、事業など多角的に分析する
投資家が企業に投資を行う前や、企業がM&Aを行う前に、その対象となる企業の価値や将来性、リスクなどを詳細に調査こと。財務状況や法的な問題がないか、事業の将来性などを専門家が多角的に分析し、その結果をもとに最終的な投資や買収の判断をする。
企業に関連した用語一覧表
ここまで紹介してきた用語の一覧表です。一気に確認したい時にご利用ください。
用語 | 概要 |
---|---|
スタートアップ | 革新的なアイデアで急成長 新しい市場を開拓する 短期間でのイグジットを目指す |
ベンチャー | 新規事業へ挑戦する企業 既存のビジネスモデルが基本 大企業では難しい事業を行う |
メガベンチャー | 大企業へ成長したベンチャー 安定した経営基盤を確立 従業員数・売上高が大きい |
ユニコーン | 評価額10億ドル以上の未上場企業 設立10年以内のテクノロジー企業 希少な存在であることの比喩 |
デカコーン | 評価額100億ドル以上の未上場企業 ユニコーンの10倍の規模 世界でも数十社しか存在しない |
ヘクトコーン | 評価額1000億ドル以上の未上場企業 ユニコーンの100倍の規模 世界でも数社しか存在しない |
シード (Seed) | 創業前後のアイデア段階 製品やサービスはまだない 主に自己資金やエンジェル投資家が支援 |
アーリー (Early) | 製品やサービスの提供を開始 ユーザー獲得と市場の反応を検証 ベンチャーキャピタルからの資金調達も |
ミドル / グロース (Middle / Growth) | 事業が軌道に乗り急成長する段階 黒字化やシェア拡大を目指す 大規模な資金調達を実施 |
レイター (Later) | 安定した収益基盤を確立 新規事業や海外展開を模索 IPO(株式上場)やM&Aを視野に入れる |
ベンチャーキャピタル | 未上場の成長企業に投資する組織 資金提供と経営支援を行う 投資先の企業価値向上を目指す |
エンジェル投資家 | 創業初期の企業に出資する個人投資家 自身の経験を元に経営助言も行う 起業家を応援したいという思いが強い傾向 |
イグジット(EXIT) | 創業者が利益を得るための出口戦略 IPO(株式上場)やM&Aが主な手段 投資家が資金を回収する重要な段階 |
新規株式公開(IPO) | 企業が証券取引所に株式を上場させること 一般の投資家が株を売買できるようになる 社会的な信用と資金調達力が向上する |
合併・買収(M&A) | 企業同士が合併したり、買収したりすること 事業の拡大や新規事業への参入が目的 スタートアップの有力なイグジット手段の一つ |
デューデリジェンス (Due Diligence) | 投資対象の企業価値やリスクを調査すること M&Aや投資を行う前に実施される 財務、法務、事業など多角的に分析する |
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