- エンジニアが放つこの一言、額面どおりのイエスじゃないんだよ。コストや工数を考えると現実的じゃない、という遠回しのサインなんだ
- 角を立てずに難色を示せる便利なクッション言葉として、商談や社内のやり取りで重宝されている
- このフレーズの裏側を読めるようになると、無茶な要求が走り出す前に立ち止まり、依頼する側もされる側も納得できる落としどころを探れるようになる
このレストランの一幕は、IT現場で日常的に起きているすれ違いの縮図です。客はできるという返事を承諾と受け取りましたが、店員が伝えたかったのは実現可能性だけでした。両者の温度感が決定的にズレている点こそ、トラブルの火種になります。
エンジニアの頭の中では、理論上の実現可能性と現実的な採算性が別々に処理されています。前者だけを切り出せば、たいていの要求は可能です。しかし厨房を貸切にして料金が100倍になるように、無理を通せば工数・費用・他案件への影響という代償が必ず発生します。この但し書きが相手に届かないと、後の炎上につながりかねません。
依頼する側が身を守る方法は明快でしょう。可能ですと言われた時点で会話を止めず、どれくらいの工数と費用がかかるか、何が犠牲になるかを聞き返すことです。できるか否かを、やるべきか否かへ変換する。この一歩が、双方の納得できる着地点を生み出します。
【深掘り】これだけ知ってればOK!
なぜ、こんなねじれた言い回しが生まれるのでしょうか。エンジニアの頭の中では、依頼を受けた瞬間に「理論上できるか」と「現実的に見合うか」が別々に処理されています。前者だけを切り出せば、たいていのことは可能です。素人でも20年訓練すれば宇宙飛行士になれる、その程度の温度感で「可能」と言っている場合すらあります。
ところが受け取る側は、この一言を「ちょっと頑張ればできる」と解釈しがちです。送り手の温度感と受け手の温度感が決定的にズレている点こそ、すれ違いの正体だと言えます。エンジニアは断りの意図を込めたのに、依頼者には前向きな返事として届く。この非対称性が、後の炎上の火種になります。
追加の問いかけは、相手を問い詰めるためのものではありません。できる・できないという二択を、やるべきか否かという判断軸に切り替えるための呼び水になります。エンジニア側も「可能だが推奨しない」という本音を言語化しやすくなり、双方が同じ土俵で意思決定できるようになるでしょう。
よくある誤解
可能と言われた=承諾された、という思い込み
このフレーズを聞いて「了承を得た」と受け取るのは、最も多い勘違いです。実際には、できるかどうかの技術判断を述べているだけで、やるという約束は一切含まれていません。「ただし今のままでは無理です」という但し書きが続くケースも珍しくなく、肯定の形をした保留と捉えるのが実態に近いでしょう。
エンジニアが後ろ向きでサボりたいだけ、ではない
難色を示されると、やる気がないのではと感じる人もいます。しかし多くの場合、その裏にあるのは品質やスケジュール、他案件への影響まで見越したプロとしての懸念です。安請け合いをしないからこそ、本当に守るべきものを守れる。後ろ向きどころか、責任感の表れと読むほうが正確ではないでしょうか。
嫌味や逃げ口上として使われているわけでもない
角の立つ「できません」を避けるための配慮として選ばれている側面が大きいフレーズです。相手との関係や立場を慮った結果、あえて柔らかい言い方になっている。受け手がその気遣いの構造を理解していれば、本来は摩擦を減らすための言葉として機能します。
会話での使われ方

技術的には可能です。ただ、その機能を入れると基盤の作り直しが発生して、納期は半年延びますし費用も倍近くになります。本当にこのタイミングで必要か、もう一度ご一緒に整理させていただけませんか。
商談の場で、クライアントから追加機能を求められたベンダー側の担当者が、頭ごなしに断らず代償を具体的な数字で示しながら再検討を促した場面です。

技術的には可能ですって便利な言葉だけど、それだけで止めると相手には「やってくれる」と伝わっちゃうんだよね。だから次の一言で、工数とリスクをセットで添えるクセをつけるといい。
1on1で、新人が顧客対応に悩んでいるのを受けて、先輩がフレーズの落とし穴と具体的な補い方をやわらかく授けている場面です。

さっきの先方の回答、技術的には可能ですで終わってたけど、あれ実質ノーだから。鵜呑みにせず、コストの見積もりを正式にもらってから次に進もう。
Slackのプロジェクトチャンネルで、部長が先方の婉曲な回答を翻訳し、メンバーが楽観的に動き出さないよう先回りで注意を共有した場面です。
【まとめ】3つのポイント
- 肯定の皮をかぶった保留:技術的には可能ですは、できると言いながら割に合わないと伝える二重構造のフレーズになります
- 追加の一問で本音を引き出す:工数・費用・犠牲になる作業を聞き返すと、できるか否かをやるべきか否かに変換できます
- 翻訳力がすれ違いを防ぐ:このサインを読めれば、無茶な要求が暴走する前に止め、双方が納得する着地点を見つけられるでしょう
よくある質問
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Q技術的には可能ですと言われたら、依頼する側はどう返すのが正解ですか?
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A
おすすめは、その場で会話を終えず一歩踏み込むことです。どれくらいの工数と費用がかかるか、他に止まる作業はないかを尋ねると、できるという言葉の裏に隠れた本当のコストが見えてきます。やるべきかどうかを一緒に判断する姿勢が、エンジニアの本音を引き出します。
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Qなぜエンジニアは無理ですとはっきり言わないのですか?
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A
関係性への配慮が大きな理由です。真正面から断ると相手の気分を害したり、仕事を嫌がっていると誤解されたりするリスクがあります。柔らかいクッション言葉を選ぶことで、角を立てずに難色を伝えようとした結果が、このフレーズだと言えるでしょう。
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Qこの言葉の元ネタや発祥はどこにあるのですか?
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A
これという特定の発信源は確認されていません。エンジニアあるあるとして以前から存在していた言い回しが、2020年頃にSNSでの投稿をきっかけに広く拡散し、ミームとして定着したとされています。技術者と非技術者のすれ違いを象徴する表現として、今も使われ続けています。
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Q技術的には可能ですと、できませんとの違いは何ですか?
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A
明確に線を引くなら、できませんは実現そのものの否定、技術的には可能ですは実現は否定しないものの実行を推奨しない保留です。前者は議論の余地を残しませんが、後者は条件しだいで道が開ける含みを持ちます。ただし受け手が含みを読み取れないと、肯定と誤解されやすい点が両者の決定的な差になります。
この用語と一緒に知っておきたい用語
| 用語 | この記事との関連 |
|---|---|
| 仕様書 | 口頭の可能ですを文書化し、言った言わないのすれ違いを防ぐ役割を担う |
| バッファ | 可能ですの裏にある工数や納期の余裕を、見積もりに織り込むための考え方 |
| トレードオフ | 可能だが何かを犠牲にする、という本音の構造そのものを表す概念 |
| ステークホルダー | このフレーズが飛び交う商談や会議に集う、利害を持つ関係者全般を指す |
| デスマーチ | 可能ですを安易に承諾と解釈した結果、しばしば行き着く過酷な開発状態 |
【出典】参考URL
https://togetter.com/li/1676715 :可能ですを社運を掛けた成功率1割と翻訳したエンジニアの投稿と反応の根拠
https://staff.persol-xtech.co.jp/i-engineer/human/yoshitani :技術者と非技術者のコミュニケーションのすれ違いが起きる構造の根拠
https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99 :額面どおりの可能と言外の期待のズレに関する解説の根拠
https://corobuzz.com/archives/164197 :可能ですに込められた本音や温度感のズレの具体例の根拠
https://gijutsuteki.com/archives/195 :追加質問でやるべきかどうかへ会話を転換する手法の根拠
https://note.com/mizkun/n/naa1b3fd6d17b :2020年頃にミーム化し元ネタが特定されない経緯の根拠


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