- 農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた造語
- IoT、AI、ロボット、ドローンなどの先端技術を農業分野で活用
- 生産性向上や課題解決を目指す取り組み全般のこと

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アグリテックをわかりやすく
アグリテックとは
アグリテックとは、単に新しい機械やソフトウェアを農業現場に導入することだけを意味するのではない。それは、農業の生産プロセスから経営管理、流通に至るまで、農業のあり方そのものをデータと技術に基づいて変革しようとする、もっと広い意味の概念。従来の農業が長年の経験や勘、継承されてきた知恵に大きく依存していたのに対し、アグリテックはセンサーやカメラから得られる客観的なデータを収集・分析し、それに基づいて最適な判断を下す「データ駆動型農業」あるいは「精密農業」への移行を促すもの。
具体的には、情報通信技術(ICT)がその中核を担う。圃場(ほじょう:田畑)に設置されたセンサーが土壌の水分量や温度、湿度、日照量などを計測し、そのデータがインターネットを通じてクラウドサーバーに集約される。集められたビッグデータはAIによって解析され、作物の生育状況の把握、病害虫発生のリスク予測、最適な水やりや施肥のタイミングの判断などに活用される。さらに、その分析結果に基づいて、ロボットトラクターが自動で耕作を行ったり、ドローンがピンポイントで農薬を散布したり、ハウス内の環境制御装置が自動で作動したりする。このように、情報の収集・分析・活用・実行という一連の流れを技術によって最適化し、効率化するのがアグリテックの基本的な考え方。
目的と背景
アグリテックがこれほどまでに注目を集める背景には、日本の農業が抱える深刻な構造的課題が存在する。
- 担い手不足と高齢化:日本の農業が直面する最大の課題の一つが、従事者の減少と高齢化。農林水産省の調査によれば、2005年に225万人いた農業従事者は、2020年には136万人まで減少した。わずか15年で約88万人も減少したことになる。さらに深刻なのは高齢化率の高さで、2020年時点で農業従事者の69.6%が65歳以上であり、49歳以下の若手・中堅層は全体のわずか11%に過ぎない。この状況は、単なる労働力不足だけでなく、長年培われてきた栽培技術や経営ノウハウの継承を困難にし、農業生産基盤の弱体化を招いている。
- 食料自給率の低迷:日本の食料自給率(カロリーベース)は、長年にわたり40%を下回る水準で推移しており、他の先進国と比較しても著しく低い状況にある。政府は食料安全保障の観点から、2030年度までに食料自給率を45%に引き上げる目標を掲げているが、国内の農業生産性を向上させなければ目標達成は困難。
- 耕作放棄地の増加:労働力不足や高齢化などを背景に、管理されずに荒廃する農地、いわゆる耕作放棄地が増加していることも問題視されている。これは国土の有効活用や景観保全の観点からも望ましくない。
アグリテックは、これらの複合的な課題に対する有力な解決策として期待されている。ロボットや自動化技術は、人手不足を補い、高齢者や女性でも負担なく作業できる環境を提供することで、省力化・効率化を実現する。IoTやAIによるデータ活用は、経験の浅い新規就農者でも熟練者と同等の栽培管理を行うことを可能にし、技術継承の円滑化や新規就農の促進に繋がる。これにより、限られた労働力でも生産性を高め、食料自給率の向上や耕作放棄地の解消に貢献することが目指されている。
さらに、アグリテックは持続可能な農業の実現にも寄与する。センサーデータに基づいた精密な管理により、必要な量だけの肥料や農薬を使用することが可能となり、環境負荷の低減(減農薬、節水、土壌汚染の防止など)に繋がる。また、エネルギー効率の高い機器の利用や、再生可能エネルギー(ソーラーシェアリングなど)との組み合わせは、CO2排出量の削減にも貢献し得る。
スマート農業との関係性
日本国内では、「アグリテック」とほぼ同じ意味合いで「スマート農業」という言葉が広く使われている。これは、日本の農林水産省が、ロボット技術やICT等の先端技術を活用して超省力化・高品質生産を実現する新たな農業の形を「スマート農業」と定義し、その普及を政策的に推進しているため。
農林水産省は、2019年度から「スマート農業実証プロジェクト」を開始し、全国各地の圃場で様々なスマート農業技術の導入効果や課題を検証する取り組みを進めている。このプロジェクトを通じて得られた知見やデータは、技術の改良や普及、導入支援策の検討などに活かされている。このように、日本においては「スマート農業」が行政用語として定着し、関連政策の中心となっている。
一方で、国際的な文脈、特に技術開発や投資、市場動向といったグローバルな情報に触れる際には、「アグリテック(AgriTech)」や、その略称である「アグテック(AgTech)」という呼称が一般的。したがって、国内外の情報を幅広く理解するためには、両方の用語とその背景を認識しておくことが重要となる。日本国内での普及状況や政策動向を把握するには「スマート農業」、海外の技術トレンドや市場動向を追うには「アグリテック/アグテック」という使い分けがなされる場合もあるが、基本的には同じ領域を指す言葉として理解して差し支えない。
アグリテックとは わかりやすい例
アグリテックは、多様な先端技術の組み合わせによって成り立っている。ここでは、アグリテックを支える主要な技術と、それらが農業の各分野でどのように活用されているかの具体例を解説する。
アグリテックを支える主要技術
以下の表は、アグリテックで中心的に利用される技術とその活用例、期待される効果をまとめたもの。これらの技術は単独で使われるだけでなく、相互に連携することでより大きな効果を発揮する。
技術 | 具体的な活用例 | 期待される効果 |
---|---|---|
IoT | ・農地、ハウス内の環境センサー(温度、湿度、土壌水分、日照、CO2濃度等)設置 ・水位センサー ・家畜装着センサーによるデータ収集 ・遠隔監視 | ・リアルタイムでの状況把握 ・遠隔管理の実現 ・精密な環境制御 ・異常検知 |
AI (人工知能) | 収集データの分析(生育予測、病害虫予測、収穫時期判定) ・最適栽培計画の立案 ・画像認識による作物・雑草・病変の識別 ・ロボット制御 ・熟練ノウハウの学習、形式知化 | ・予測精度の向上 ・意思決定支援 ・作業の自動化、最適化 ・品質向上 ・技術継承の促進 |
ロボット技術 | 自動走行トラクター、田植機、コンバイン ・自動収穫ロボット ・除草ロボット ・農薬散布ロボット ・運搬ロボット ・搾乳給餌ロボット ・パワーアシストスーツ | ・農作業の自動化、省力化 ・労働負担の軽減 ・作業精度の向上 ・24時間稼働による効率化 ・危険作業の回避 |
ドローン | ・農薬、肥料、種子の散布 ・圃場の空撮モニタリング(生育状況、病害虫検知) ・測量 ・精密農業へのデータ提供 ・植林 | ・広範囲、ピンポイント作業の効率化 ・コスト削減 ・データ収集の容易化 ・人手不足の緩和 ・危険作業の回避 |
ビッグデータ | ・環境データ ・生育データ ・作業記録 ・気象データ ・市場データ等の収集、蓄積、統合分析 | ・経営判断の最適化 ・生産計画の精度向上 ・収量、品質の予測と改善 ・リスク管理 ・技術開発への活用 |
GPS/GNSS | ・農機の自動走行 ・作業位置の正確な記録 ・圃場のマッピング ・可変施肥、播種への活用 | ・作業精度の向上 ・作業重複の回避 ・効率的な圃場管理 |
衛星データ/リモートセンシング | ・広域の圃場状態分析(生育状況、土壌水分等) ・気象情報と組み合わせた予測 ・耕作放棄地調査 | ・広範囲な状況把握 ・効率的な資源管理 ・リスク評価 |
クラウド技術 | ・収集データの保存、管理、共有 ・遠隔からのシステム操作、監視 ・農業支援サービスプラットフォームの提供 | ・データへのアクセス性向上 ・情報共有の円滑化 ・スケーラビリティの確保 ・場所を選ばない管理 |
その他 | ・ブロックチェーン(トレーサビリティ向上) ・ゲノム編集(新品種開発) ・垂直農法、植物工場(都市型農業) ・ソーラーシェアリング(エネルギー) | ・サプライチェーン透明化 ・高機能作物の開発 ・土地利用効率の向上 ・再生可能エネルギーの活用 |
アグリテック導入の実際の手順
- ステップ1課題分析と目的設定
自社の農業経営が抱える具体的な課題を洗い出す。例えば、「高齢化で人手が足りない」「特定の作業(除草、収穫など)の負担が大きい」「収量が安定しない」「品質にばらつきがある」「コスト(人件費、資材費)を削減したい」「環境負荷を低減したい」といった点を明確にする。そして、これらの課題に対し、アグリテックを導入することで何を達成したいのか、具体的な目標を設定する。目標は、「労働時間を〇%削減する」「収量を〇%向上させる」「肥料コストを〇%削減する」のように、可能な限り定量的(KPI:重要業績評価指標)に設定することが望ましい。この最初のステップが、導入する技術の方向性を決定する上で最も重要となる。
- ステップ2情報収集と比較検討
設定した課題と目標に基づき、それらの解決に貢献しうるアグリテック技術やサービスに関する情報を幅広く収集する。具体的には、どのような技術(自動走行農機、ドローン、センサー、環境制御システム、経営管理ソフトなど)が存在するのか、各メーカーの製品の特徴や価格、導入実績、サポート体制などを調べる。他の農業者による導入事例や、農林水産省などが実施している実証プロジェクトの成果報告、関連する展示会やセミナーなども重要な情報源となる。収集した情報を基に、複数の選択肢を比較検討する。
- ステップ3技術・サービスの選定
比較検討の結果を踏まえ、自社の課題解決や目標達成に最も効果的であり、かつ予算や運用体制(技術スキル、人員など)に見合った技術やサービスを選定する。単一の技術だけでなく、複数の技術を組み合わせることも視野に入れる。また、将来的な拡張性や、既存の設備・システムとの互換性も重要な選定基準となる。導入後のサポート体制が充実しているかも確認が必要だ
- ステップ4導入計画の策定
選定した技術・サービスについて、具体的な導入計画を策定する。これには、導入する機器やシステムの詳細な仕様、導入時期とスケジュール、必要な初期投資額とランニングコスト(保守費用、通信費、消耗品費など)の見積もり、設置場所や必要なインフラ(電源、安定したインターネット通信環境など)の整備計画、操作・運用・データ活用に関する人材育成計画、データ管理体制の構築、期待される効果(費用対効果分析を含む)などを盛り込む。計画は具体的かつ現実的であることが求められる。
- ステップ5資金調達と補助金申請
策定した導入計画に基づき、必要な資金を確保する。自己資金で賄えない場合は、金融機関からの融資を検討する。また、国(農林水産省)や地方自治体などが、スマート農業の導入を支援するための様々な補助金や助成金制度を用意している場合が多い。これらの制度を積極的に活用することで、導入コストの負担を軽減できる可能性がある。公募要領を確認し、申請要件を満たす場合は、計画書などの必要書類を準備して期限内に申請手続きを行う。
- ステップ6導入とシステム構築
資金の目処が立ち次第、導入計画に沿って具体的な導入作業を進める。これには、農業機械やセンサー、制御装置などの物理的な設置、ソフトウェアのインストールと設定、ネットワーク環境の構築、必要に応じて既存システムとのデータ連携(例:生産管理システムと販売管理システムの連携)などが含まれる。導入作業は、メーカーや専門の導入支援事業者のサポートを受けながら進めるのが一般的。
- ステップ7運用とトレーニング
システム構築が完了したら、実際に運用を開始する。導入した機器やソフトウェアの正しい操作方法、データの見方や活用方法について、従業員向けのトレーニングを実施することが重要である。日常的な運用を通じて、データを継続的に収集・蓄積し、分析するサイクルを確立する。運用マニュアルの整備や、トラブル発生時の対応手順なども明確にしておく必要がある。
- ステップ8効果測定と改善
導入後、定期的にその効果を測定し、評価する。ステップ1で設定した目標(KPI)に対して、どの程度の成果が出ているか(例:労働時間は計画通り削減されたか、収量は目標に達したか、コストは削減できたか)を客観的なデータに基づいて検証する。費用対効果も重要な評価項目となる。評価結果から課題点や改善点を見つけ出し、運用方法の見直し、設定値の調整、システムの改良、あるいは追加的な技術導入などを検討し、継続的に改善を図っていく。
アグリテックについてのよくある質問
- Qアグリテックとスマート農業は何が違うのか?
- A
日本国内においては、これら二つの言葉はほとんど同じ意味で使われている。農林水産省はロボット技術やICTを活用した新しい農業を「スマート農業」と定義し、政策的に推進している。一方、海外では「アグリテック(AgriTech)」や「アグテック(AgTech)」という呼称がより一般的である。基本的には同じ概念を指していると理解して良い。
- Q具体的にどんな技術が使われているのか?
- A
代表的な技術としては、農地の環境や作物の状態を監視する「IoTセンサー」、集めたデータを分析して予測や判断を行う「AI(人工知能)」、農作業を自動化する「ロボット」(自動走行トラクター、収穫ロボットなど)、農薬散布や空撮を行う「ドローン」、農機の自動操舵や位置情報管理に使う「GPS/GNSS」、そしてこれらの技術を支える「クラウドコンピューティング」や「ビッグデータ解析」などがある。これらの技術を単独または組み合わせて活用し、農作業の自動化やデータに基づいた精密な管理を実現する。
- Q導入にはどのくらいの費用がかかるのか?
- A
導入する技術の種類や規模によって費用は大きく異なるが、一般的に高額になる傾向がある。例えば、高性能な自動走行(無人)トラクターは1,000万円を超える場合があり、農業用ドローンも性能によっては数十万円から数百万円程度かかる。ただし、比較的安価なセンサーシステムやソフトウェア、あるいは初期費用を抑えられるリース契約や、国・自治体の補助金・助成金制度も存在するため、一概には言えない。費用対効果を慎重に検討する必要がある。
- Q専門知識がなくても導入できるのか?
- A
技術によっては、導入や運用に一定のITスキルや専門知識が必要となる場合がある。特に、収集したデータを分析して経営判断に活かすためには、ある程度の学習や慣れが必要となる。しかし、近年では初心者でも比較的簡単に操作できる製品や、導入から運用までをサポートしてくれるサービス、研修プログラムなども増えている。自社のスキルレベルに合った技術やサポート体制を選ぶことが重要。
- Qどんなメリットがあるのか?
- A
主なメリットとしては、①生産性の向上(収量増加、作業時間短縮)、②省力化・労働負担の軽減(特にきつい作業や危険な作業からの解放)、③コスト削減(人件費、肥料・農薬などの資材費)、④品質の向上・安定化、⑤熟練者の持つ技術やノウハウのデータ化・継承、⑥経験の浅い人でも参入しやすくなることによる新規就農の促進、⑦精密な管理による環境負荷の低減(減農薬、節水など)などが挙げられる。
- Qデメリットや注意点はあるか?
- A
デメリットとしては、前述の「高額な導入コスト」と「IT技術の習得・人材確保の難しさ」が代表的。その他にも、メーカー間で機器やデータの「規格が統一されておらず互換性に乏しい」問題、IoT機器などが「安定した通信環境に依存する」点、データ入力やシステム管理といった「新たな作業負担が発生する」可能性などが挙げられる。導入前にこれらの点を考慮し、対策を検討する必要がある。
アグリテックまとめ
- アグリテック(AgriTech)は、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた言葉であり、IoT、AI、ロボット、ドローンなどの先端技術を農業分野で活用する取り組み全般を指す。日本では「スマート農業」とも呼ばれ、労働力不足や高齢化、食料自給率低迷といった日本の農業が抱える課題を解決し、生産性向上や効率化、持続可能性の向上を目指すもの。
- アグリテック導入により、省力化・労働負担軽減、効率化によるコスト削減、データ活用による品質向上・安定化、熟練技術の継承、新規就農の促進、精密な管理による環境負荷低減といった多くのメリットが期待される。一方で、高額な初期導入コスト、ITスキルや専門人材の不足、技術やデータの標準化の遅れ、安定した通信インフラへの依存といった課題やデメリットも存在する。
- アグリテック市場は世界的に成長しており、日本国内でも市場拡大が続いている。技術の進展や政府による推進策も追い風となっている。今後は、AIやロボット技術の更なる高度化、農業データの連携・活用基盤の整備、異業種からの参入による新サービスの創出などが進み、農業の生産性向上だけでなく、サプライチェーン全体の最適化や環境保全にも貢献し、持続可能な農業と食料供給システムの実現に向けた重要な役割を担うことが期待される。

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